ホログラフィック三次元テレビジョン

吉川 浩

(日本大学広報誌「桜門春秋(No. 60)」の「私の研究」欄に掲載.
94年7月発行)

 三次元テレビジョンと言うと、イベントなどで使用される特殊なメガネを利 用する立体映像や、最近話題になっているステレオグラムなどがよく知られて いる。しかし、これらの三次元映像は、複数の二次元映像の組み合わせで「本 物らしく」見せる技術である。それに対して、ホログラフィック三次元テレビ ジョンは眼の焦点調節をも含む理想的な技術であり、本物と区別できない三次 元映像を再現可能である。「立体写真術」としてのホログラフィはすでに完成 の域にある。しかし、ホログラフィックテレビジョンとなると、もっとも優れ た三次元表示技術であると同時にもっとも困難な技術でもあり、解決するべき 問題も多く残されている。そのため、SF小説や映画などには良く登場するが、 その実現はつい最近までは不可能と考えられていた。  私がホログラフィック三次元テレビジョンの研究を始めるきっかけとなった のは六年前に本学からマサチューセッツ工科大学のメディア研究所に派遣され、 ベントン教授の研究グループにおいてホログラム情報をスーパーコンピュータ により生成するプロジェクトを担当したことである。このグループにおいて一 年後に世界で初めてホログラフィック三次元画像の実時間での生成・伝送・表 示を行うことができた。メディア研究所では研究内容だけでなく研究のスタイ ルやシステムなど日本とは大きく異なっていて参考になった。  現在のテレビジョンと同様に、三次元テレビジョンを実現するには様々な分 野の研究成果が必要である。本学において現在主として研究をおこなっている のはホログラムをデジタル情報として扱う場合の情報量の圧縮や補間、情報の 生成などである。高さ、幅、奥行きが各三センチメートル程度の小さな立体像 を表示するために必要な情報量でも現在のハイビジョンよりも多く、より実用 的な大きさの表示システムのためにはホログラム情報の圧縮技術は重要な課題 である。また、マルチメディア等に使用する対話型ディスプレイのためには情 報の高速生成が必須となる。これらの処理を効果的に行うために、デジタル化 されたホログラム情報を「ブロック分割と変換」により取り扱う方法を提案し た。ホログラフィック画像の特徴は二次元画像とは大きく異なっているが、ブ ロック分割と変換により二次元画像と類似な性質を持たせる事ができる。それ によって、情報の圧縮や補間が容易に行えるようになった。また、ブロックご とに分割されたデータは独立に扱う事が可能になるので並列処理が可能となる。 最近の電子計算機は、分散・並列処理により高速化を計っており、ホログラム 情報の「ブロック分割と変換」は計算機処理との相性も良い。  ホログラフィック三次元テレビジョンシステム全体の研究としては、郵政省 の主導で平成四年十月より通信・放送機構において「高度立体動画像通信プロ ジェクト」が五カ年の計画で開始された。このプロジェクトでは大学関係から 三名、企業から七名の研究者が参加して研究をおこなっており、私もプロジェ クトサブリーダとして研究に参加している。この研究は電気通信技術審議会第 四七号答申「二一世紀を展望した情報通信技術開発に関する基本方策について」 (平成四年六月)において、国が早急に取り組むべき先導的技術開発課題の具 体的課題例の一つに、緊急性の高いものとして冒頭に揚げられている。  ホログラフィック三次元テレビジョンの研究は未だ搖籃期であり、手探りの 状態で研究を進めなければならない。しかし、裏返して考えれば独創性を発揮 できる絶好の機会である。また、研究課題の宝庫でもあり、日々新たな発見が 有る魅力的な研究でもある。
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